日本の道路の規制速度改良案と決定フロー(概論)

【この記事は、当方の脳内整理を目的としたいわばプロトタイプです。ツッコミ発生前提で書いていますが悪しからずご了承ください。】

 

テキトーな規制で、実態に即してない場合も多く、お世辞にも守られる事が多いとは言えない日本の制限速度。

ドライバーの多くが「納得して守れる」規制で、かつ交通安全を阻害しない規制とするためには、どのような規制速度体系を敷けば良いでしょうか。

今回は、日本の規制速度体系の改善案について、大雑把に私案を提案します。

※「制限速度を守る事で安全となる」とは敢えて一言も書いていません。その理由はまた機会があれば書きます

 

運転者が「納得して守れる」速度規制の実現には、まず運転者がどのような思考で走行速度を決めているかを考慮する必要があります。

※「前車に付いていく」等自らの意思で走行速度を決められない場合や、「思い切り飛ばす」等といった危険運転についての言及は、今回は避けます

 

公道上で「一定程度安全に」運転し、「常識的な」動きをしている車両について考えてみましょう。

運転者は、どのような場面においてどの程度の速度で走っているのでしょうか。

本当は精密な研究が必要な場面かもしれませんが、私が約15年の間、全国で道路を走る車を複数の立場()から観察して感じた事が以下の点です。

※歩行者、ママチャリ、スポーツ自転車、軽自動車、普通車(約30車種)、路線バス(乗客)

 

★走行上の障害(渋滞、悪線形、悪天候、歩行者等)が何もない場合、道幅 & 幹線度 & 沿道状況が同じような道路では、平均的な走行速度が似ている

道幅 or 幹線度 or 沿道状況のいずれか1つではなく、各組み合わせごとに85%タイル走行速度()が決まっている様に感じました。例えば…

※ある道路において、全運転者の遅い方から数えて85%目の人が妥当だと感じる走行速度。常識的な運転をする車の走行速度は、概ね「85%タイル速度」以内に収まると言われている

・道幅:4車線以上、幹線度:国道や主要な県道、沿道状況:都市郊外の住宅街・・70km/h

・道幅:4車線以上、幹線度:国道や主要な県道、沿道状況:都市の中心部・・・・60km/h

・道幅:4車線以上、幹線度:県道や主要な市道、沿道状況:都市の中心部・・・・50km/h

・道幅:4車線以上、幹線度:都市圏間の主要国道、沿道状況:郊外・・・・・・・80km/h

・道幅:4車線以上、幹線度:都市圏間の主要国道、沿道状況:郊外(立体交差)・・90~100km/h

・道幅:2車線  、幹線度:国道や主要な県道、沿道状況:山間部(良線形)・・70km/h

・道幅:2車線  、幹線度:県道や主要な市道、沿道状況:都市郊外の住宅街・・50km/h

・道幅:狭い2車線、幹線度:県道や主要な市道、沿道状況:都市郊外の住宅街・・40km/h

・道幅:狭い2車線、幹線度:県道や主要な市道、沿道状況:歩行者の多い駅前・・30km/h

・道幅:1.5車線、幹線度:県道や主要な市道、沿道状況:郊外の集落・・・・・40km/h

・道幅:1車線  、幹線度:抜け道程度の市道、沿道状況:都市郊外の住宅街・・30km/h

・道幅:1車線  、幹線度:抜け道程度の市道、沿道状況:住宅密集地・・・・・20km/h

・道幅:1車線  、幹線度:完全なる路地  、沿道状況:歩行者の多い駅前・・10km/h

(補足1)交通量が多い場合、遅めの車両に全体の走行速度が左右されるため、道幅&幹線度&沿道状況の組合せによって上限速度がほぼ決まる(上に挙げた速度より低い場合が多く、また制限速度の判断に用いづらい)

(補足2)大勢の歩行者が自動車と共存している道路、又は車の前に歩行者が飛び出すリスクが高いと判断された道路では、車は速度を落とす傾向にある(生活道路の速度はドライバーの判断に左右される)

(補足3)逆に、沿道から歩行者が出てくる可能性の小さい道路では、車は速度を上げる傾向にある(沿道が大規模施設の塀や鉄道の敷地内、山の斜面など)

(補足4)長距離の移動を担う道路では、同じような幅の道路でも走行速度が高くなる(都市間を結ぶ山越えの道、北海道の国道、首都圏と中京圏を結ぶ国道1号のバイパスなど)

(補足5)都市内の高規格道路より、郊外の低規格道路の方が走行速度が高い場合がある(世界的に普遍な現象)

(補足6)同じような沿道状況&幹線度&道幅の道路ならば、制限速度に拘わらず、大体の車の走行速度は一定になる(取り締まりに影響されやすい道や地域差もあるが)

(補足7)急勾配の坂道が長距離続く場合、上り側の車両の平均速度は下り側と比較して遅くなる(他に減速要素が無い場合)

 

従って、制限速度を決める際も

①道幅 & 幹線度 & 沿道状況の組み合わせに応じた基本速度を定め、次に

場所によって異なる減速要素(横断歩行者、線形、勾配、交通量、信号、事故の多い道路形状など)に応じて、基本速度から下げた速度(状況別速度)を最終的な規制として設定する

また、時間帯に応じて安全性が著しく変化する道路では、時間帯別の規制速度を設定する

と、実情に応じた制限速度体系に近付けやすいと思いました。

 

実際の制限速度は、実勢速度だけでなく歩行者の安全性なども考慮する必要がありますが、これは減速要素を以下の2種に分ける事で分かり易く整理できます。

自動車の走行そのものに起因する減速要素(線形、勾配、交通量、信号密度など)

周辺環境に起因する減速要素(横断歩行者、住宅専用地区、学校、病院、商業施設、路駐需要など)

ゾーン20、ゾーン30といった面的規制も㋑に当てはまります。

幹線道路(補助幹線道路除く)をも巻き込んだ面的規制は、速度規制の実効性や信頼性を損なう場合が多いため、慎重になるべきでしょう

まとめ:規制速度決定フロー

①沿道状況・幹線度・道幅の3つを基に、基本速度を設定する

②自動車の走行や周辺環境に起因する個別の減速要素を基に、状況別速度を設定する

③状況に応じて、時間帯別の規制速度を設定する

以上が、私が考える規制速度体系の基礎であり原点です。

それでは、基本速度や状況別速度、時間帯別速度の具体的な設定方法はどのようなものでしょうか。

 

【①基本速度】

沿道状況・幹線度・道幅の3つの指標を示しました。各指標を細かく分けるとキリが無いですが、細かい分類は状況別速度に任せるとしてざっくり分類します。

私は以下の分け方が丁度良いと思います。※4車線=片側2車線、2車線=片側1車線

但し、沿道状況「市街地」、幹線度「主要幹線道路」については、速度規制分類の必要性が感じられない場合は今後削除する事もあり得ます。また、「高規格バイパス」の分類は状況別速度に任せるかも知れません

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沿道状況・幹線度・道幅の分類

幹線道路では大まかな実勢速度を基に、区画道路では沿道への影響も考えながら、各組み合わせごとに基本速度を設定します。

道路状況によって、一般道や「高速自動車国道でない自動車専用道路」にも10km/h~100km/hの規制速度が存在して良いと考えます。

沿道状況が8段階、幹線度が6段階、道幅が8段階(高速道路は別)あるため、単純計算で8×6×8=384通りの基本速度が存在する事になります。

しかし、これには実際にはあり得ない組み合わせも含まれるため、基本速度の分類はこれより少なくなります。

 

【②状況別速度】

基本速度をそのまま適用すると危険性が著しく増大する、沿道環境が著しく悪くなる、利便性が著しく低下するなどといった道路に対して、名前通り状況に応じた制限速度を設定します。減速要因は、

㋐自動車の都合によるもの

 (勾配や線形など走行性能の限界に起因する制約・交通量増大や信号などによる速度の制約)
 (運転手個人の意思でこれ以上の速度を出すのが困難)

㋑沿道環境に配慮するもの

 (学校や病院、交差点前での減速・環境規制・ゾーン30・加速度規制など)
 (運転手個人の意思で容易にこれ以上の速度を出せる)

の2種類に大別できます。

後者は前者より容易に制限速度を破れる状況なだけに、速度をコントロールする難易度が高いです。

従って、単に規制速度を設定するだけでなく、減速デバイス・歩車混在構造・啓蒙活動等を併用することで速度抑制の効果が表れやすくなるでしょう。

また、後者のような道路では、規制の最終目的は歩行者&自転車の安全性確保や歩きやすい道の実現、騒音低減等による沿道住民のQOL上昇にあるため、交差点の形状・見通しを改良したり道路のデザインを工夫するなど、速度規制以外のアプローチも同時に行うべきでしょう

例外として、市街地のバイパス道路で信号区間から無信号区間へ変わる場合など、車両の騒音や排気ガスを削減したい道路では、制限速度の引き上げ地点を敢えて遅らせる事で事実上の加速度規制とする事も可能です

また、区画道路や補助幹線道路では、既存の制限速度をそのまま適用できる(むしろ速度引き下げ?)道路が多いです。

 

また、主に前者に当てはまる話ですが、日本では道路の制限速度に設計速度をそのまま採用する間違いが本当に多く見られます。

一般に、設計速度は

・決められた区間の中で、最も条件が悪い(最急勾配、最悪線形)地点において

・条件の不利な大型車等も含め、全ての車が限りなく安全に走行できる速度

を基に決められます。

一方、制限速度は

・状況に応じて柔軟に設定された区間において(線形の良い区間と悪い区間を区別する)

・遅い方から85%目の車両が妥当だと感じる速度(※)

※通常走行において、運転者が危険を感じない程度の速度で走行できる速度

を基に決められるべき速度ですから、殆どの区間では本質的に制限速度が設計速度より高い速度となるはずです。※前述の最急勾配・最悪線形地点の前後を除く

 

具体的な基準について全て述べるとそれだけで本が1冊書けそうなボリュームになるため、本記事では割愛します。(そもそも、これらの基準が全て固まっていない状態ですからね)

 

【③時間帯別速度】

主に

・昼間は交通量が多いが、夜間は交通量が少なく快適に走れる幹線道路

・平常時の安全性は他と同じだが、登下校・通勤の時間帯は一時的に横断歩行者が多くなるため速度を抑制したい学校前/ビジネス街の地区幹線道路/補助幹線道路

などへの適用を想定しています。

日本では、大阪市の国道25号や京都市国道1号徳島市の国道11号・55号などで導入済みです。

大阪と徳島の例では両時間帯の速度規制標識を併設していますが、京都の例では可変標識のみ設置し、表示を単純化しています。少し意味合いが異なりますが、東北では積雪のある冬場のみ制限速度が下がる道路があるそうです

日本での導入例は前者が多いですが、後者のように適用パターンをもう少し増やした上で全国に普及させると、不合理な速度規制を減らせると思います。

標識をどう単純化させ、見やすいものにするかが課題ですね

 

本記事は以上です。

本当は、細かい基準まで本記事に書きたかったのですが、その前段階で予想より長くなってしまったため、一旦ここで完結です。

本記事を執筆する段階で、自分の脳内で散らばっていた新速度規制案に関する意見が体系化された気がします

 

次に規制速度体系に関する記事を書くとしたら、具体的な速度規制の基準や数値まで示したいと思います。それでは!